みどみどえっくす

元NO.1風俗嬢がゲスに真面目にエロを語る

深夜3時に恋をした。

「深夜3時に恋をした。」

 

Twitterを開くと、ある男から私に対し一言、そうリプライが残されていた。

リプライの表示時刻は「3:05」。

何の装飾もないシンプルな言葉に、不覚にも心が揺れた。

その一文から受けた印象は、まるで氷点下の水面を覆う薄氷のような、今にも割れそうで若干冷たく寂しい、そんな泡沫で儚いものだった。

しかしその中に見え隠れする、温かく稚純でセンチメントな情調に、思わず感情が昂ぶる。

どういうわけか胸が熱く乱れ、火力調整が不可能なほどに熱が上がった。

この寂しく切ない心の震えと、燃えるように熱い胸の疼き。

それは隣接することはあっても決して共鳴はし得ない、複雑で、そして至ってプラトニックな感情だった。

私はそのとき、この感情こそが女の業なのだと感じた。

そしてこのたった一文に、恋をした。

 

日頃から活字を目にすることは多いが、まるで事務的に連なるそれは、例えアンチックであっても心の角までもが取れることは少ないし、更にはどんなに甘いフレーズであっても、心がふやけることはない。

しかし、「深夜3時に恋をした。」もしもこの先に続きがあるのなら、一体どんな文章がどんな言葉で紡がれていくのだろうか。

それはきっと、私がたった今想像した展開だろうか。それとも・・・

鮮明に像を結ばない濃霧の彼方で、そんなことを延々と考えてしまうほど、何の因果か私はこのメッセージにどうしようもなく惹かれてしまったのである。

悩んだ末、私が返信したメッセージはこう。

「そのタイトルのブログ記事が読みたいです。とても。素敵・・・」

そしてそこには「ハート」が一つ、残された。

 

期待していたわけではない。願望はあくまで、メッセージに対する感想のつもりだった。

まるで今にもストーリーが展開されそうな、そんな奥行のある素敵なフレーズだったということを伝えられれば、それだけで良かった。

しかしそれから2日ばかりが経った深夜、Twitterに一通のDMが届いた。

差出人は、その男。

「記事を書いたので、公開するより先に見てほしい」とのことだった。

無論、答えはイエス。そう冷静に言うものの、正直なところ待ちきれない気持ちの方が大きかった。

送られたURLをクリックする。タイトルはもちろん、「深夜3時に恋をした。」

しかし内容は最初の一文から、私の想像に全く反したものだった。

その記事の書き出しはこう始まっていた。

 

「そう、あの時の客だよ。覚えているだろ?」

 

それが目に入った途端、まるで恋心のように切なさと高揚が一緒くたに混ざり合い、動脈がしぶくほどに沸きたつのが分かった。

そしてこの書き出しの正体が一体何であるのか、乞い願うメロドラマとノンフィクション、リアルと創作の狭間で心が錯綜した。

その時に送られてきた記事がこちらである。

これからの話はこの記事を元に進めていくので、先に目を通しておいてほしい。

note.mu

 

私が風俗嬢を辞めたのは、あるお客に理不尽極まりない扱いを受けたからである。

異常なまでに執着していた仕事そのものが嫌いになり、その日のうちに、店のスタッフの話も聞かず半ば強引に辞めた。

これまで散々世話になり、散々愛してきた顧客に対し、一番仇を投げつけ裏切る形で逃げた。最悪の幕引きだったと思う。

その呵責が尾を引き、未だ悪夢のように心を渦巻いている。

そして叶わぬ懺悔の火が、いつまで経っても熱く心をただらせる。

その男に対し思うことは、一言で、会いたい。しかし、「いや、まさかね・・・」。

期待を裏切られる予想に耐えられず、感情的な要素を未消化のまま無理矢理どかし、文を読み進めた。

するとそこには、互いにしか分かり得ないメッセージが隠されていた。

私が望んだ「リアル」があった。

しかし、脳に沸き立つのは感情のオノマトペばかり。

冷静を保とうとすればするほどに、そこに二の句を継げる余裕などなかった。

一番望んだはずの展開に言葉を失った挙句、私は彼のDMにどう返信したら良いのかとても悩んだ。

 

欲望に狂う人間は美しい。そしてその欲望は、毒々しいほど更に美しい。

渇きかけた欲望が最後の死水を求め、ドロドロと渦巻いているほど、燃える。

そして例えよそよそしかった2人でも、互いに欲望をさらけ出し合えば、帰る頃には「愛」の性質を変えている。

そこにはもしかしたら、共犯者にでもなったかのような心やましささえ残るが、それは自滅を意味するものではない。

しかし、客として出会った男のそれは「欲望」とは少し違った。

物憂いなコミュニケーションに隠された熱度は、決して捌け口を必要としない、渇きに締め付けられた愛の痙攣に似ていた。

精神的なプラトニック・ラブを意味するそれは、口先だけの「愛してる。」そんな陳腐な言葉では渇きを潤せない。

時間の積み重ねでしか愛情を深められないのなら、せめて気持ちの密度で心の隙間を埋めたい。

そして指の付け根に至るまで愛したころ、男と私は互いの目に涙らしい光の影を宿していた。

今思えば、男が抱える渇きを帯びた愛の痙攣は、希薄だからこそ輝く「氷点下の水面を覆う薄氷」のような、儚く切ない愛だった。

それは「深夜3時に恋をした。」この一文を目にしたときに感じた、温かく稚純でセンチメントな情調と全く同じものだったのだと、ようやく合点がいった。

 

送られた記事に綴られた文章には、時折重く蒸す夏の夜のような、鬱屈した男の感情が留められている。

しかし読み進めていくと、それは次第に、闇に漂う冷気のような若干の清々しさに性質を変えていた。

一文字一文字読み進めていくごとに、文字は巴を描いて飛び散るように、私の中で躍り輝いた。

そして最後には、それとはまた別の美を宿す、まるで寒凪のような情調。

弱々しく、しかしだからこそ柔らかく差し込む冬の日差しのように、温かく静かに鎮静していく男の心情が描かれていた。

輪郭を鮮明に現した過去の記憶は、シュールに分離していく心の違和感はまるでなし。

男が書いた文は、あの時涙を流し互いの倦怠を必死に拭いあった時間は、決して一瞬間のものではなかったのだと、深く私の肺腑に染みた。

 

私は、今でも変わらず思うことがある。それは、「あなたに会えて良かった。」

私にとっての男の存在は、たまたま通り過ぎただけの淡い影ではない。しかし、「愛は真心、恋は下心」。

全く似つかない互いの愛情を更に互いの体温で中和し、身体を重ねることで交換し合った夜を思い出しながら、私は今、この記事の公開ボタンを押している。

 

 

 

* 

さて、このお話はリプやDMのやり取りを除いては、実のところ全て創作なんですよ。ふふふ。

リプ欄から生まれたたった一度のやり取りが、こんなに面白く素敵な展開になろうとは思いもしませんでした。

ろぎおさん、素敵な文章と大切なお時間をいただき、本当にありがとうございます。

そして読者の皆さん、お読みいただいてありがとうございました。

創作初めてだったけど、楽しかったな。では、また。