みどみどえっくす

元NO.1風俗嬢がゲスに真面目にエロを語る

ありあまる地球意識の存在

油を多量に流した海のようだった。穏やかに、微動に揺れることもない。はたまた、うねりを帯び、ささくれ立つ波を風が散らすこともない。饐(す)えたように濁り、隙間なく張った油の膜で、心は重く閉ざされていく。

日々のやりきれない倦怠、莫大な水圧に耐える私の心は、外骨格生物のように硬く厚くなっていた。

 

6月某日。主治医に言われた言葉はこう。

うつ病、酷くなってますね。そして躁(そう)になってます。お金使いすぎたり、怒りっぽかったりしませんか?」

確かにそうであった。元々は抑うつ状態が続いていたはずだ。激しい気分の落ち込み、朝日が昇る恐怖感や絶望感、不眠。それらがもう何か月も続いていた。

しかし状況が変わったのは主治医に薬の種類を増やされてからである。10日ほどしたある日から、あれだけ恐怖の対象であった朝日が、突如として心の暗闇を消し去ったのだ。

軽快な朝日を受け、私の心は毎朝 黄金色に輝いた。雨のどんよりした朝も、一滴の雨粒が心に波紋を描き、その巴は情緒を独占したものだった。

「わたしは今、確実にここに生きている。」普段は鈍く くぐもって聞こえた波の音が、突然どーんとしぶきをあげた。その正体は生命の波音、新生マチ子爆誕である。ザッバァァアアァァ〜〜〜アァアアンアンアン♡(無論、喘ぎ声ではない。ビッグウェーブである。)

どういうわけか無駄にありあまる地球意識を持ち始めた。あぁ、自分もこの地球(ほし)のメンバーなのだな、という使命感から「2021ブレスレット【新しい地球意識】」という極めて怪しいブレスレットを、極めてカジュアルに購入してしまったのである。24,000円でした。たぶん、まだ在庫あると思う。ヤフオクです。(企画上、リンクや画像の添付がだめみたい)

それを受け、主治医はいささかほどに複雑な笑みを浮かべた。(今思えば笑い堪えてたのかも。)

「それ返品できないんですかぁ?一旦、こう、地球から意識をそらしてみましょう。」

いきなり早口になり目も合わせてもらえず、「こいつマジ極まってるやべぇ奴」みたいな扱いだった。更には先ほどよりも早口で「地球のことは忘れましょう。うん、うん、それが良い。」と、主治医はその考えが非常に名案であり、むしろそれしかないであろうといったふうに、自身の言葉に自身で頷いていた。

それを目の当たりにし、「ちょwwwwwwおまwwwwwwそのような勘所を早口で唐突に申すとは実に軽薄でござりますぞwwwwww」と言いたいのを堪え、こう答えた。

「えぇ、まったくですね。」

もちろん二の句を継げる余裕などない。忘却とは生きる知恵であるからに。

 

近頃の若者の多くは「青い鳥症候群」と呼ばれるものに罹患しているらしい。モーリス・メーテルリンクの書いた童話「青い鳥」が語源となっており、理想と現実のギャップにフラストレーションを抱え、根拠もなく次から次へと新しい理想や夢、幸せを追い求めてしまいがちな人を指す、通俗的な呼称である。

この「青い鳥」といえば、ある貧しい木こり家庭の「チルチル・ミチル」という、とても対極的である2人の兄弟で有名な童話であるが、ご存知の方も多いのではないだろうか。

この場合における対極的な2人とは、片や「チル(散る)」に対し、片や「ミチル(満ちる)」という、プラマイゼロを体現したような兄弟のこと。さらにミチル(満ちる)に対しチル(散る)は「散る散る」と「✕2」しちゃってるところから、「プラマイゼロ、むしろマイ」などといった、互いの関係が露骨に不利に働く、まるで売り時を間違えた不動産のような兄弟のお話である。

従って今日日 世界における幸せの定義とは、もしかすると「プラマイゼロ、むしろマイ」などといったふうに、「つらいときこそが幸せである」というドM理論が適用されているのであろう。

そんなドMたちがこぞって罹患する「青い鳥症候群」、どうやら何と私もそこのメンバーであるらしい。自分の思い描く理想と現実とのギャップに苦しみ、空虚な気分や無気力感、不安感に襲われていた時期があったからだ。そしてこの「青い鳥症候群」とうつ病が密接した関係にあることを、私は知っていた。

さて私の場合、大局的に見て主な所属が地球であるのなら、「青い鳥症候群」はサブであろう。かつてのモーニング娘。改め、ハロプロシャッフルユニットのようである。確か「あか組4」とか「青色7」とか「黄色5」とか、合成着色料のような女の集団であったのは記憶に定か。なるほど、私はこの日をもって地球のメンバー改め、青色添加物アイドルとなったわけである。それに地球のメンバー、青い鳥症候群のメンバー、1人2役とは私も甚だエコノミックな人間になったものだ。ともすればユニット名は「エコノミック・ピーポー青1」(1人なので)が妥当であろう。ここまでくると二重人格のあれである。どうしてこのようになってしまったのだろう。教えてください、ねえねえ、あなた。

それからInstagramのストーリーには、ほぼ毎日かわりばえのない自撮りの画像に「おはようございます♡みなさん今日もニコニコ頑張りましょ♡」という決まり文句が添えられた。手前、僭越ながらアイドルなので。

朝の気分はもちろん「おはよう」、「Good morning」なんてものではない。「The start of a party!(パーティーの始まり!)」だ。まったくおめでたい話である。手前、僭越ながらアイドルなので。

これまでの口癖が「くっそしんど」だった女が、毎朝せっせとスマホに笑みを向け、使い慣れないカメラアプリに苦戦しながらも一心不乱に青い鳥を追いかけた。

鍵付きの極めてプライベート性の高いアカウント(しかもフォロワー数若干35名程)から発せられる「みなさん」という三人称を用いたシャウトは、売れないアイドルが飛躍を夢見て、つい「アリーーーーーナァァァァアアアアアアァァxッァァxxッァァァxxxxxxxxxーーーーーーーー~~~~ッッッッxxxxx!!」とか言ってみちゃったアレのようであり、今更ながら非常に羞恥にまみれている。幼稚園児のお遊戯会でもまだ観客が多いであろう。誠に遺憾である。鍵付きアリーナのみなさん、その節はお付き合いいただき本当にありがとうございました。

そして躁状態が少し良くなってきたころからの決まり文句は「おはようございます♡今日もゆるゆる頑張りましょ♡」(無論、股の話ではない。手前の頭の話でもない。)

全く躁でなくなった今はもう、朝の挨拶など無しである。くっそめんど。しかしながらこれが通常運転なのだ。手前、アイドルじゃなかったみたい。これからもどうぞよろしく!

 

ところで先日の通院帰り、病院近くのデパートで溶岩の3連ブレスレットをこれまた極めてカジュアルに購入しそうになったところ、連れに止められた。例え固結したとしても、マグマは地球に生きるものからすれば情熱の証であると思ったのだが、こればかりは仕方ない。この地球(ほし)とは、モノではなくココロで繋がり合うべきなのである。我々地球のメンバーは、まずは自然との繋がり方を学ぶべきなのだ。ソウル!パッション!!その為には自我の没却こそが全てである。地球に心臓を捧げよ!

もちろん今の気分は金色に映えた常夏の海。私は私に、出来るかぎりのことをしてやろうと思っている。月が沈めば日が昇るのである。頑張って病気治すぞッ!!ザッバァァアアァァ〜〜〜アァアアンアンアン♡(地球を忘れることを忘れている)